そろそろ酔いもまわってきた4杯目の酒の次に、さらに美味しい酒が5杯目として出てきたような第5話。
先週の第4話を野球中継の延長ないしハロウィンで夜更かしして見逃した方は、ぜひ第4話まで巻き戻してこの第5話への美しい流れに酔いしれていただきたい。

今回、最終カットで「このゲームは終わり。新しい世界にようこそ」というオンラインゲームのメッセージがディスプレイに映し出される。これまで終わりを知らずに続いていたものが終わりを告げる、それも、けして動かなかった山が劇的な形で動いていく回だった。

まず、晶(新垣結衣)と長年つきあっていた京谷(田中圭)は、前回は全国の視聴者を敵に回すようなことをしでかしてしまった。その代わり、あまり思いやりもないし、酔って女性を誘ってしまうような男であったはずの恒星(松田龍平)がカッコよく見え始めていた。

このまま晶と恒星が急接近するかと思いきや、そうもいかないのだ。
京谷にも、視聴者目線から見た好感度としては、少し風が吹いてくる回だった。

この第5話では「堂々めぐり」という言葉が何度か晶のセリフの中に出てくる。

そもそも昔の彼女である朱里(黒木華)を家から追い出せずに4年も放置していた京谷(田中圭)を晶は許せない。当然だ。
それが原因で何度も衝突するが、京谷と会うとまた許してしまうことの堂々めぐりが続いてきた。
そして京谷も京谷で、自分と晶との関係も伝えたうえで家を出ていくように朱里を何度も説得するが、彼女にはダラダラと居座られてしまう。彼女は仕事を探そうともせず家に引きこもってゲームをしているだけ。これも堂々めぐりだ。

今回、そんな朱里の言い分を聞くことができた。
とても身勝手ではあるが、彼女のなかではきちんとした筋道が立っているのだ。

自分は京谷からもう愛されてもいないし、仕事を探そうとしても見つからない。
それに比べて、愛されていて仕事でも活躍している晶に文句を言われる筋合いはないだろう。

晶は、途方に暮れる。
ああ、この子はこの家を出ていく気は、さらさらないのだ。この堂々めぐりには、出口がない。

突然、頭の中のスイッチが切り替わってしまった晶は、これまでにも増していい人を演じるようになる。
いままでも充分いい人であったが、実は断りきれずに内心イヤイヤやっていた仕事を、率先して、にこやかに、そして完璧にこなす。
「しあわせなら手を叩こう」を口ずさみながら、テキパキと。

この一連のシーン、ちょっと不気味な視聴体験だった。

そして仕事帰りの恒星にばったり出会うと、先日ちょっと気まずいことになったにもかからわず、明るく振る舞う。

ただし、晶はその後、京谷の母親・千春(田中美佐子)との長電話のなかで、心が揺れ動いてしまう。
ドラマの中では、千春が少女時代に今の夫と出会って結ばれるまでの恋物語を、再現映像の形で、かなりの時間を割いて丁寧に描いていた。今はその夫が寝たきりになり、千春はその介護をほとんどひとりでしている。ただ、その辛さよりも、出会った当時の愛情のほうが勝っているので苦労とも思っていないのだ、と告げる。

説得力のあるその言葉を聞いて、どうしたらいいのか泣き出してしまう晶。

また堂々めぐりじゃないか。

そして、ドラマは最終シーンで、いつまでも続くと言っていた一つのゲームが終わる。
オンラインゲームは、プレイヤーがいる限りお金を払い続けてくれるから、運営会社はゲームを終わらせたりしない、という朱里の言葉。これが、ダラダラと京谷の家に居座っている朱里の比喩になっているのが、何とも秀逸な表現手法である。

そして、バー「5tap」の前で咄嗟にしてしまったキスで、第6話から新しいゲームが始まる。

P.S.
日本列島の正反対の位置にある、遠く離れた若狭湾と相模湾の間で結ばれた恋、ステキでした。
ニューヨークとロサンゼルスでは、ここまでロマンチックじゃない。

今から観るには:「獣になれない私たち」

基本情報:日テレ水曜ドラマ「獣になれない私たち」第5話 – 新垣結衣・松田龍平 主演

  • タイトル 獣になれない私たち
  • チャンネル 日本テレビ系列
  • 番組公式サイト トップ あらすじ 人物相関図 キャスト&スタッフ
  • 放送日時(第5話) 2018年11月7日(水)22:00〜23:00
  • 出演
    • 深海晶・しんかいあきら(IT会社勤務):新垣結衣 WikipediaWikipedia
    • 根元恒星・ねもとこうせい(会計士・税理士):松田龍平 WikipediaWikipedia
    • 花井京谷・はないきょうや(大手デベロッパー勤務):田中圭 WikipediaWikipedia
    • 橘呉羽・たちばなくれは(恒星の「元」彼女):菊地凛子WikipediaWikipedia Twitter@rinko_kikuchi
    • 長門朱里・ながとしゅり(恒星と同居する女):黒木華 WikipediaWikipedia
    • 上野発・うえのはつ(晶の同僚):犬飼貴丈 WikipediaWikipedia
    • 松任谷夢子・まつとうやゆめこ(晶の同僚):伊藤沙莉  WikipediaWikipedia
    • 佐久間久作・さくまきゅうさく(晶の同僚):近藤公園  WikipediaWikipedia
    • 岡持三郎・おかもちさぶろう(ラーメン屋店員):一ノ瀬ワタル WikipediaWikipedia
    • タクラマカン佐藤(バー5 tap店長):松尾貴史 WikipediaWikipedia Twitter@Kitsch_Matsuo
    • 九十九剣児・つくもけんじ(晶の勤務先社長):山内圭哉 WikipediaWikipedia
    • 花井千春・はないちはる(京谷の母):田中美佐子 WikipediaWikipedia
  • 脚本 野木亜紀子
  • 主題歌 あいみょん「今夜このまま」
  • 挿入歌 ビッケブランカ「まっしろ」