南北38度線を越えたラブストーリー『愛の不時着』と並べて扱われることが多い2020年の人気ドラマだが、まるっきり違うタイプの作品だ。
全く別の感動が得られるので、本作と『愛の不時着』と両方を観てもよし、『愛の不時着』より先にこっちだけを観るのもアリだ。

『梨泰院クラス』の面白さ1:新しいテイスト

乱暴な例えだが、『愛の不時着』がヒゲダン(Official髭男dism)だとしたら、この『梨泰院クラス』はゲスの極み乙女。のようなものだ。

ヒゲダンは、クオリティの高い正統派J-POP。でも、けしてサザンではない新しさも感じる。
いっぽうのゲス極は、メンバーのキャラも歌詞も音楽も、異星から来たような違和感のあるテイストを持つ。

別の例えで言えば『梨泰院クラス』からは、日本のお笑いの世界で第7世代と呼ばれる、これまでの伝統にこだわらない新しい勢いを感じる。EXITや四千頭身が出演していても違和感ないようなドラマだ。

『梨泰院クラス』の面白さ2:信念を貫いて生き抜くことの擬似体験

この物語の原作は同名のネットコミックで、韓国の首都ソウルの繁華街にある梨泰院(イテウォン)という一等地で飲食業を営む精鋭チームを描いたもの。第1話は、ちょっと違和感のある変化球な始まり方をするが、前半30分過ぎに、このドラマの真髄とも言える「何があっても信念を貫く」感動シーンが心を打つ。思わず「いいドラマだ」と呟いてしまう。

誰しも、信念を曲げずに生きるのはむずかしい。自分の学籍や職場を奪うことができる巨大な圧力の前には、信念を曲げても賢明な選択肢を取るのが常だろう。
このドラマのメインキャラのひとりである、パク・セロイ(パク・ソジュン)は、そんな誰もが我慢して呑み込んでしまうような理不尽を呑み込まずに、信念を曲げない。
相手が強過ぎて、倍返しを喰らうのをわかっているような状況でも向かっていってしまう。そして大きな傷を追う。
そんな、実際の人生ではなかなかできない、信念を貫いて生き抜くことの潔さを擬似体験ができるのが、この物語の痛快さでもある。
第1話30分過ぎの、セロイをサポートするお父さんの勇気ある行動も、じわりと涙を誘う。

『梨泰院クラス』の面白さ3:壮大な復讐劇

全く新しいスタイルのドラマ、と申し上げたが、『梨泰院クラス』は、韓国ドラマのあるあるパターンも備えている。それは復讐劇の要素だ。『愛の不時着』では、壮大なラブストーリーをメインに、ヒョンビン演じる主人公による、実兄の仇への復讐劇というサイドストーリーがあった。いっぽうこの『梨泰院クラス』は、どちらかと言えばラブの要素は少なめで、復讐劇のほうがメインディッシュのようだ。

その復讐のプロローグとなる第1話に早速登場する、セロイの敵役が独特の存在感を醸し出す。『愛の不時着』で登場する悪徳少佐は、視聴者の恨みをも一手に引き受け、最後には懲らしめられるに決まっている言ってみれば可哀想な存在だった。いっぽう、この『梨泰院クラス』で悪役の位置に座る、飲食業グループ・長家(チャンガ)の会長は、落ち着きはらったヤクザの大親分のような深みを持っている。おそらく最後はこの会長も打ちのめされるのかも知れないが、そこに至るまでに若きセロイが立ち向かう苦難の道を描いた、壮大な復讐劇の源流がこの第1話だ。

第2話へ

今の段階では、セロイはその大親分に立ち向かう何の「武器」も持ち合わせていない。にもかかわらず結末では、この話のなかで二度目の無鉄砲な行動に出てしまう。前半のセロイとその父の潔さに感動した場面から、なるべくそうならないでほしい流れに進んでしまい、彼を応援する気持ちもちょっと萎える。しかし、ここで振り上げた拳をセロイは下ろしてくれるか。ひとまず続きの第2話冒頭を見守りたい。

P.S.

韓国では、目上の人の前で酒を飲むときは、目の前の相手に向かって横を見て飲むのが作法。この第1話では身内である父の前でもそうすべきなんだ、と言うことがわかる。
ラブの要素を排除した珍しいピュアな復讐劇の名作と言えば、オム・テウン主演の『復活』というドラマ。そこでも、瓜二つの双子の兄に化けたオム・テウンが、偉い人の前で横を向いて飲んでいた。

基本情報: 『梨泰院クラス』

  • タイトル: 『梨泰院クラス』
  • 配信: NETFLIX
  • 原作: チョ・クァンジン
  • 出演: 
    • パク・ソジュン、キム・ダミ、ユ・ジェミョン、クォン・ナラ