2020年春、コロナウイルスよる外出自粛の動きが始まってから企画し、テレワークだけで撮影されたドラマ。
TBS「半沢直樹」や日テレ「ハケンの品格」の第1話すら始まっていないなかで、次の7月のドラマなど制作できるのだろうか、という心配もそろそろ浮かび上がってくる。
打ち合わせ、ヘアメイク、ロケ移動、スタジオ収録、編集など、ドラマの制作現場は、濃厚接触や「三密」だらけだ。
おまけに、恋人同士が2メートル以上離れて成立するドラマなんてありえないだろ。
世の中全体が身動きをせず、この事態の「終息」を待っているなかで、この革新的な企画がいち早く通って、それに賛同する俳優さんがいて、これまでにない手法にチャレンジしたことは、賞賛に値する。そして、この第1夜「心はホノルル彼にはピーナツバター」は、恋人同士が何百キロも離れて成立するドラマとなっている。
登場人物は、結婚を控えた男女ふたりだけ。どうやら緊急事態宣言でハワイでの挙式がお流れになったらしい。
別々の家に住み、パソコンでビデオ通話をしてるのだが、なぜ一緒に暮らしていないのかは、会話の中でわかってくる。
生活保護のリアルを描いたドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」の矢島弘一による脚本は、どこまでもリアル。
パートナー間で、いかにもありそうな意識のズレや、ちょっとした一言が諍いの元になってしまう様子を、会話のなかで実にうまく表現している。
単に他人のビデオ通話を覗き見しているだけのように思いきや、そこはドラマ。ときおり入るBGMが、会話の局面が変わったときに効果的に使われている。そして、お互いがずっとそばにいれば場の空気に流されてうやむやになっていたかも知れない問題が浮かび上がるなど、テレワークドラマという設定を逆にうまく活用しているところも絶妙。
この作品を短期間で造り上げたことだけで見事と言うほかないが、最後のオチと言うか、物語の解決のしかたが、視聴者目線では少し性急に感じたのではないだろうか。
妙な沈黙を挟むとか、ずっとリアルタイムではなく翌日に時間を飛ばすとか、ちょっとした何かがあれば最後のシーンが納得感のあるものに仕上がったかも知れない。
三夜連続の次回は、大御所・小日向文世と竹下景子による、死んだ妻がパソコン画面に現れるというもの。こちらも楽しみだ。
P.S.
スタッフブログによれば、一般世間がテレワークを始めたので通信速度が遅くなってこのドラマの撮影にも支障が出たそうです。
今から観るには:NHK『今だから新作ドラマ作ってみました』
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