緊急事態宣言のなか、NHKがテレワークだけで制作したこのドラマの「第2夜」が放送されたのは、2020年の子供の日の夜。同日、TBSテレビの『マツコの知らない世界』では、ディズニーフリークである風間俊介が出演して、ディズニーリゾートの知られざる魅力を解説していた。この千葉県浦安市にある別世界は、テレビドラマの予算規模の何桁も上の莫大な経費をかけたエンタメであることを再認識する。むろん今しばらくは入場することはできない。こういう状況になる前に収録されたものだろう。

このディズニーとは対局にある、アイデアと役者の演技力だけで勝負するテレワークドラマが始まった。

第1夜のレビューで書いたが、NHKという保守的かも知れない組織の中で、このチャレンジングな企画を通して、短期間にオンエアまで漕ぎ着けたスタッフや出演者のスピリットや現場推進力には敬服する。

その前提で、少し意地悪な見方をする。

ここに来て、仕事ではビデオ会議、飲み会もZoom画面、テレビをつければ出演者が画面越しにコメントする番組が増えていく。
そんななかで「ドラマまでこれかよ」という印象を受ける視聴者もいるだろう。

そりゃ、大河ドラマや『ノーサイド・ゲーム』のような超大作から得られる体験に比べれば、ある意味「面白く」はない。こっちのほうが「面白かった」ら、これまでの莫大な制作費をかけたドラマは何だったんだ、と言うことにもなる。

ただ、狭苦しい窮屈な制約のなかで、受け手のイマジネーションを刺激して独特の世界観を描くエンタメも歴史上には様々ある。
金がなくても、面白いものはできる。
くしくも『ノーサイド・ゲーム』の主演を務めた大泉洋が有名になるきっかけとなったのが、出演者とスタッフ合わせて4人だけで成立する、究極の低制作費番組『水曜どうでしょう』だった。

大変前置きが長くなってしまったが、このテレワークドラマの第2夜は、結婚を控えたカップルを描いた第1夜とは対局にある、長年寄り添った夫婦の最後を写し出す。

今回の設定の新しいところは、妻・舞子(竹下景子)が既に他界しているところだ。
その死んだ妻が、パソコン画面越しに夫(小日向文世)に離婚届を突きつける。
何とも奇想天外な展開だが、ここまでが予告編の事前情報でわかっていることだった。

ただ、これまで『コンフィデンスマンJP』『高嶺の花』『メゾン・ド・ポリス』などで、様々なキャラクターを変幻自在にこなしてきた巨匠・小日向文世が、今回ばかりは、死んだ妻が画面に現れたときに驚く反応など、役作りが完璧でないまま、本番を迎えてしまったような印象。

急に持ち上がった企画だったわけで、実際に時間がなかったのかも知れない。

大御所俳優に向かって失礼ではあるけれど、ホームランを期待したバッターがシングルヒットだったようなことで、今回このむずかしい打席に立ってくれた小日向さんの姿勢には敬服したい。

いっぽう、妻役の竹下景子は落ち着き払っていて、この設定にはナチュラルにハマっていた。

物語は、予告編から予想していた以上のまさかの展開を見せるが、それは観てのお楽しみである。

第1夜は夫婦生活がこれから始まる設定だったが、第2夜では、円満夫婦も、結局は個人と個人であって、何かしらの未解決問題を残しながら最後を迎えてしまう現実を思い知らされる作品だった。

そして、登場人物が初めて3人(柴咲コウ×ムロツヨシ×高橋一生)となる最終話も楽しみである。

P.S.

エンディングテーマを歌うのが、まさかこの人とは。

今から観るには:NHK『今だから新作ドラマ作ってみました』

基本情報:NHK『今だから新作ドラマ作ってみました』第2夜【さよならMyWay!!!】

  • タイトル:今だから新作ドラマ作ってみました
  • チャンネル:NHK総合
  • 番組公式サイト:NHKドラマ スタッフブログ
  • 放送日時(第2夜):NHK総合 2020年5月5日(火)23:15〜23:45
  • 出演: 
    • 宍戸道男:小日向文世
    • 宍戸舞子:竹下景子
  • 脚本:池谷雅夫