3話続けて北朝鮮将校・ジョンヒョク(ヒョンビン)の大胆な行動に驚愕するラストシーン。見ていてちょっと恥ずかしくなってしまうような胸キュンネタだが、第1話では「あ、そういうことね」レベルだったものが、第2話、第3話と、その驚愕度が倍々ゲームでエスカレートしていく。毎回このパターンで全16話を走りきるのかは知る由もないが…

そして早くも、北朝鮮に「不時着」してしまった韓国女性セリ(ソン・イェジン)が、ジョンヒョクの助けによって海上からの脱出を試みる。もう少しの間、この不法滞在者の隠れ家生活を長引かせてハラハラドキドキを楽しむストーリーでもよかった気もするが、脚本家パク・ジウンは潔くも第2話の結末で、彼女の存在を周囲の目に晒してしまう流れに舵を切った。

南から来た女なのになぜここに滞在できるのか。それに対するジョンヒョクの弁明が「なるほどそんな手があったのか」と思わせる巧妙なものだったが、いずれこの嘘もバレる。そのため、早々と秘密裏に脱北の手配をすることになる。

最後の船上シーンがせつない。

韓国では親族との折り合いが悪く、帰国しても歓迎されない立場のセリにとっては、よくしてくれたジョンヒョクやその部下の兵士4人組と、もう逢えなくなることも辛い。

ただし、ドラマとしては、ここで失敗してくれないと話が続かない。したがって予想どおり、運悪く失敗するのだが、密航がバレたときのまさかのごまかし方が、この第3話ラストの驚きポイントだ。

この結末の意外な行動を含めて、主人公ジョンヒョクの人格や立場が色濃く浮かび上がったのがこの第3話でもある。

カッコいい。けれど、可愛い

このドラマの印象的な登場人物の代表格が、今回の結末シーンにも少なからず影響を与えた韓国ドラマファンの北朝鮮兵士・キム・ジュモク(ユ・スビン)だ。それに加え、この『愛の不時着』が名作である所以とも言えるキャラ設定で特筆すべきは、ヒョンビン演じる主役の人格に散りばめられた隠し味の絶妙さだろう。

ヒョンビンは、その韓ドラフリークのジュモクが大好きなドラマ『天国の階段』に出演しているクォン・サンウのような熱血演技派ではなくて、どちらかと言えば無表情で無骨なタイプの役者さん。冷静沈着な北朝鮮将校としてはぴたりハマっている。そんな彼が禁断の恋に墜ちるというコントラストが面白いのだが、その内に秘めた感情がときおりこぼれ落ちる演出が実に巧妙だ。
たとえば今回、最後の別れの前に自分をサポートしれくれた兵士たちを、セリが「表彰」する場面がある。そこで、いちばん尽くしたはずの自分に表彰が回ってこないときに、ツマらなそうにする表情が少し挟み込まれていて、視聴者目線では「カッコいい。けれど、可愛い」キャラを彩っているのが粋な演出だ。
そして冷静沈着なはずの彼が、とんでもなく影響されやすいヤツだということがわかる今回の最終シーンが決定打となって、愛すべきキャラとしてその地位を確立したのだった。

さらに、この第3話では、ジョンヒョクが兵士になった経緯となる過去の事件が浮かび上がってくる。配下の兵士4人組やセリにも明かされていないが、どうやら彼の身分はかなり上。そして、第2話の結末で乗り込んでくる保衛部チョ・チョルガン(オ・マンソク)が過去に犯した、ジョンヒョクの兄を悲劇に陥れた陰謀が浮かび上がる。ここで、単なるラブストーリーだけでなく、復讐劇の要素が入ったことで、ドラマの構造も、ジョンヒョクのキャラも立体感のあるものになってきた。

このような過去の陰謀を暴くパターンは、真相が究明されない限り、続きを見たくなる麻薬性を持っているので、長丁場となる韓ドラではよく見られる手法。さほど有名な作品ではないが、オススメはオム・テウン主演の『復活』というドラマ。自分の兄に対する過去の陰謀を暴くストーリーとしては、この『愛の不時着』に近く、ドキドキしながら楽しめる作品だ。

やはり出た、恋敵

この第3話のなかで、平壌の空港に降り立つ、ひとりの女性がいる。海外でも活躍する音楽家のソ・ダン(ソ・ジヘ)だ。その清楚な風貌は、いかにも北朝鮮の富裕層の娘という印象。同じ上流階級の子息であるジョンヒョンの「婚約者」であるという。
ストーリー上は、ジョンヒョクとセリはそれほど明確な恋愛関係にはなっていないものの、早くもセリのライバルをここで登場させ、このあとの展開への準備も万端である。
合わせて同時に平壌入りするのが、もうひとりの準主役であるク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)で、これで韓国ドラマの典型的な配役である「男女4人組」が出揃うことになる。ちょうど空港の入国ゲートで、この二人がニアミスするので、何かしらの縁を予感させる。どんな「四角関係」に発展するのか、まだ想像はつかない。

第4話へ

ふと気づくと、同じ母国語で普通にコミュニケーションができて、キムチを常食とする同じ血の流れた民族が分断されている悲しさを感じるドラマ。「統一したら、チェ・ジウ(『冬のソナタ』の主演女優で、今回何度も話題になる『天国の階段』でもヒロインを務めた)とのランチをアレンジしてあげるわ」というセリの台詞にもある、祖国統一はいつになるのだろう。何があるかわからないこの世の中、近いうちに実現することを願いたい。
そんな別れの言葉を告げたセリは、あと一歩のところで脱北に失敗して、第4話からは元の家に戻るのだろう。
なぜ密航がバレたのに助かったのかは、第3話の結末をご覧あれ。

P.S.

詮索好きのおばちゃんは、万国共通。

基本情報: 『愛の不時着』

  • タイトル: 『愛の不時着』
  • 配信: NETFLIX
  • 脚本: パク・ジウン…『星から来たあなた』『逆転の女王』
  • 出演: 
    • ソン・イェジン…映画『私の頭の中の消しゴム』ドラマ『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』
    • ヒョンビン…ドラマ『私の名前はキム・サムスン』『シークレット・ガーデン』『アルハンブラ宮殿の思い出』