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NHK大河ドラマ「麒麟がくる」第16話【大きな国】

美濃のため奔走する明智光秀(長谷川博己)
しかし国を二分する内乱は防げず――

斉藤道三(本木雅弘)は正妻の子である孫四郎(長谷川純)と喜平次(犬飼直紀)を、跡を継がせた嫡男・高政(伊藤英明)に殺害され激昂、大桑城へと居を移す。美濃の国は、道三と高政をめぐる緊張が高まり、一触即発の状態に。美濃を二分しての内乱を恐れる光秀は、事態を打開すべく、尾張・織田家へ嫁いだ帰蝶(川口春奈)のもとへ向かうが――

前回に引き続き、光秀はあちこちの板挟みになりつつ右往左往するばかりで、主人公らしい大きな成果はあげられていない。だが、物語をうまくつなぐという意味では、なかなかの働きをしていることがわかる。

美濃の内乱を見せるには、先代・斎藤道三、当代・斎藤高政、織田家に嫁いだ帰蝶の三者を描く必要があるが、光秀はこの三者すべてのもとへ出入りできる特殊なポジションにいる。つまり狂言回しとしては最適な人材なのだ(もっとも、構成的にいい仕事をしても、本人がどうもパッとしないのは事実なので、早く活躍させてあげてほしい気はします・笑)。

また、光秀の明智家も、道三・高政いずれにつくか、立場をはっきりさせる必要に迫られるのだが、ここでも、まず道三につくと決断するのは、光秀ではなく叔父・光安(西村まさ彦)だ。自身の家のことであってすら、光秀は引きずられる形でしか動いていない。いや、流石にそこはもうちょっと頑張って! と言いたくなってしまう。

だが、前に出すぎない光秀のお陰で、美濃のひとびとそれぞれの苦悩や表情が際立っている。これまで堅実ながら地味な脇役だった光安の悲壮、高政の幼馴染光秀に対する執着と冷徹、そして何より道三の諦観と信念が、響いてくる。

蝮とまで言われた道三が、人の上に立つ者は正直でなくてはならないと語る重みは、半端ない。さらに道三は、今回のサブタイトルにつながるある願いを、光秀へと託し――

いきなりだけれど、ここで、前言をひっくり返したい。
突然、何事とお思いでしょうが、やっぱりこれは主人公・光秀の物語なのですよね。

主人公がただの狂言回し扱いされているようでいながら、その実、描かれているのは光秀という人間が形づくられていく過程になっているのだ。道三はもとより、その他の人びとの思いすべてが、後の光秀を構成する血肉へ転化していく。光秀本人が、純粋でかつ、いい意味で薄めのキャラクターだからこそ、すべてを吸収しながら、主人公として大きくなっていけるのだろう(マニアックなたとえになりますが、80年代の人気漫画・北斗の拳で、主人公が奥義・無想転生の習得に至る過程に近いかも)。

ともかくも、光秀はついに、大きなものを前半の主人公ともいえる道三から、託された。光秀のことだから、まだしばらくは、右往左往が続きそうだけれど、初期衝動は固まったわけだ。

さて、次回はついに道三と高政の決戦となる。
前半を引っ張ってきた道三の最後だけに、見逃せない一話になりそうだ。

今から観るには:NHK 大河ドラマ「麒麟がくる」

基本情報:NHK 大河ドラマ「麒麟がくる」第16話