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NHK大河ドラマ『麒麟がくる』第8話【同盟のゆくえ】

斎藤家・織田家の同盟が成立
明智光秀(長谷川博己)、帰蝶(川口春奈)、駒(門脇麦)それぞれの思い

斎藤道三の娘・帰蝶に頼まれた光秀は、縁組相手の織田信長(染谷将太)の人物を見極めに、尾張へ出向く。信長が毎日漁に出ていると聞いた光秀は、浜辺で待つことに。そうするうち漁師たちと共に、小舟で戻った信長は、とれた魚を浜辺でさばき、ひときれ一文で売りはじめた。信長の風変りな行動に光秀は困惑、美濃へ戻ってからも、帰蝶への返答に悩むが――

ドラマで歴史上の人物を描く際よく使われる言葉に、「新しい〇〇像」がある。ただこの言葉、制作サイドはもちろん頭をひねって考えてはいるのだろうけれど、実際見てみると、さほど代わり映えしない場合が多い。特にさんざん描かれてきた信長・秀吉・家康の三英雄ともなると、視聴者の中にある程度固定化されたイメージができている分、それを大きく変えてしまうのは、冒険でもあるから尚更だ。

今回、ついに登場した『麒麟がくる』の信長は、本当に新しかった。
というか、信長だと聞かされずに登場シーンを見たなら、歴史好き時代劇好きほど、

これ、誰……?

となること、うけあい。

若い信長というと、周囲からうつけ(馬鹿)扱いされた、かぶき者(派手だったりパンクな行動をする人)というのが、旧来のイメージ。普通に思い浮かぶのは、片肌ぬいでごろつきまがいの若者たちを連れ歩いたりして、粗暴な雰囲気ながら、ただ者ではない大器の片鱗もちょこっとみせる――ようなカットだし、実際そういう描き方をした時代劇が大半だった。

ところがこの信長は、なんの違和感もなく漁師にまじって魚をとってきたかと思えば、そこそこ愛想よく魚を売りだし、近隣住民にも慕われている様子。百歩譲って、秀吉の若かりし頃と言われたなら、まだ納得できるけれど、こんな信長は予想だにしていなかった。正直に言って、信長感ゼロの信長だ。

この信長が成長しても、旧来イメージの信長にはなりようもないだろう。
どう成長してゆくのか想像もつかないが、どんな人間になったとしても、歴史的事実は変えられない。この信長が、歴史の中にどう落とし込まれていくのかは、今後の大きな見どころのひとつになりそうだ。

信長のインパクトがあまりに強かったので、つい字数を割いてしまったけれど、第8話のメインは、斎藤家内部の政治的な対立構造描写と、光秀・帰蝶・駒の淡い恋模様の決着だ。

恋愛面のほうは、歴史上の流れがあるから、結果はわかっていた内容。とはいえ恋愛を通して、三人の立場や人間性がうまく表現されているので、面白く見られた。ベタな胸キュンシーンや、安易な涙がない分、より現実味のある切なさがあるのもいい(それでいてちゃんと爽やかで可愛いのも、好印象でした!)。

『麒麟がくる』の脚本はバランスがいいと毎回のように書いている気がするけれど、恋愛面でも、やはりバランスの良さを感じた。

さて、次回はサブタイトル「信長の失敗」となっているから、今回驚かせてくれた信長にスポットが当たる様子。大きな歴史的事件は起こらずとも、新機軸の信長をじっくり見られるだけで楽しみだ。

今から観るには:NHK 大河ドラマ『麒麟がくる』

基本情報:NHK 大河ドラマ『麒麟がくる』第8話