2018年の夏ドラマとして放映されたこの作品は、沢村一樹による狂気に満ちたショッキングな復讐シーンで幕を閉じた。
今回始まった続編は、前シーズンと同じく、これから起こりそうな犯罪を予測するAIシステムにしたがって、未来の犯罪を「止める」ことをテーマにした刑事モノ。
ただ、沢村一樹の激しさは確実にパワーアップしており、犯罪の謎解きも巧妙な仕掛けが織り込まれていてマンネリ感がない。
前シーズンからストーリーが繋がっているドラマだが、このシーズンから合流しても十分楽しめる。まだ一度も観たことのない方のために、これまでの経緯を少し補足しながらレビューしたい。

ミハンとは

警察が水面下で開発し、実験的に捜査に使っているAIシステムで、これから凶悪犯罪を起こしそうな人物を特定することができる。
上戸彩から沢村一樹に主役をバトンタッチした前シーズンから、この巨大なマシンが登場する。
そもそも2010年に始まったころは「コールド・ケース」という未解決事件を扱ったドラマだったのでタイトルが「絶対零度」だったわけだが、もはやこの言葉から連想される世界観とは異なる作品になってきている。

警察の動きが後手にまわったために起こる痛ましい事件が多い昨今、何かが起きてしまう前に寸止めできるなら、どれほどよいだろう。

ただ、この「ミハン」は、個人情報、防犯カメラの映像、犯罪歴のある人間はその記録、通信記録、そして個人がネットで購入した商品の情報をも傍受している。
しかも今回の第1話でも出てくるが、危険人物を見つけると、まだ犯罪を犯していないうちから捜査員が住居に潜入して勝手にカメラを仕込んだり、やっている捜査そのものが違法なものである。
このため、法制化に向けて動いてはいるものの、まだ世間には知られていないという設定だ。
海外ではこういうやり方が既に導入されている気もするし、近い将来の犯罪防止の手法としてリアリティをもって観ることができる。

ただし、問題もある。

危険人物・井沢

そのミハンの指示にしたがって行動する「未然犯罪捜査対策室」のリーダーが、井沢範人(沢村一樹)だ。
前シーズンの最終話で、人殺し寸前の行為をしたので抹消されたのかと思いきや、元サヤに戻っている。
ただ、彼は皮肉にもミハンがはじき出す、危険人物のひとり。いつ人殺しをするかわからないのだ。

なぜか。

ミハンは極秘プロジェクト。
法律で認められるまでは、違法捜査をしていることが世間に知れたら大変なことになる。
このため、警察は情報漏洩を徹底的に潰しにかかる。
実は井沢は、自分の妻と娘が、警察がミハンの情報を極秘にするための巻き添えを喰って殺害されたという過去を持っているのだ。

彼の憎むべき相手は、まだ生きている。

ひとりは井沢の妻子殺人の実行犯、宇佐美。
もうひとりは一連の口封じのための指示を出していた、警察上層部の町田。
井沢は、その二人にいつまた襲いかかるかも知れない、危険な存在なのだ。

しかし、刑事としての能力はピカイチ。
そこで、何かあったら警察組織のなかで消滅させても構わないと上層部が思っている、訳ありの存在なのだ。
そして、この第1話から、いつ何をしでかすかわからない彼の負の側面が垣間見える。

今シーズンも、ミハンシステムを使って犯罪を阻止する正義感と、消すことのできない恨みから危ない行動に出る凶暴性を、沢村一樹が恐ろしいほどのパワーで見事に表現しきっている。

新たな登場人物は?

井沢(沢村一樹)の脇を固めるのは、山内徹(横山裕)、小田切唯(本田翼)。前シーズンからのお馴染みのメンバーである。
新キャラとして、研修の一環でミハンチームに入ったキャリア警察官の森永悠希(吉岡拓海)は、元天才子役という異色の経歴を持っていて、別人に扮して潜入捜査をする役割として際立った面白さを見せている。

また、同じチームの天才コンピュータハッカー・加賀美聡介には、老練な柄本明を起用していて、彼が全体の重心を支えている。前シーズンに南彦太郎役で大活躍した柄本時生と柄本明の親子共演が実現。
ただ、柄本時生は今回のみらしく、父にレギュラーを譲った形。いい味出してたので、また息子にも出て欲しい気もする。

さらに、新たな井沢の監視役としてミハンチームに加わってきたのが香坂朱里(水野美紀)が今シーズンの新たな牽引役となりそうだ。水野美紀は、ひとりの男を10人の女が争うバカリズム脚本の「黒い十人の女」でおせっかいな仕切り屋を演じたり、最近ではNHK連続テレビ小説「スカーレット」で戸田恵梨香の奉公時代に同じ屋根の下に住む女性新聞記者を演じたり、クセのある役をやらせたら天下一品。今回も切れ味のよい演技を見せてくれた。

第1話の展開

オリンピックを130日後に控えた東京サミットという設定で、冒頭から「何かをしてしまった」井沢のシーンが映し出される。手には拳銃。顔には血。

そのあと突然、その73日前まで時間が巻き戻される。

ミハンチームが、豪華客船の船上パーティへの潜入捜査をしている。ちょっとわかりづらかったが、冒頭の拳銃を持つ井沢のシーンとは全く別の、今シーズンのオープニングを飾る、独立したご挨拶シーンだったようだ。

そのあとさらに少し時が進んで「ミハン」が主役の別の事件の話になる。

ここで、前シーズンで大問題を起こしてしまったミハンが、まだ生き残っていることがわかる。
しかも、法務省から来た香坂(水野美紀)の指揮のもと法制化する流れも始まっている。

いつものように、システムが危険人物を割り出し、将来起こしそうな犯罪がどんなものなのかを突き止めていく。
今回は同時に2名の人物が浮かび上がる。
彼らの接点をあぶり出す過程にはさまざまな謎が仕込まれていて、最初は予想もつかなかった真相へとドラマは向かう。

もはや冒頭で井沢が拳銃を持っていた場面を忘れかけたころ、最後にまたその冒頭シーンに戻ったときに、戦慄が走る。

ああ、井沢は、なぜこんなことをしてしまったのか、と思った瞬間に、謎を残したまま幕を閉じる。

悪を憎むまり、その悪を執拗に痛めつけてしまうことまでが正義なのか。
応援しているはずの主役が、暴走して行き過ぎた行動に出てしまうことに頭を抱え、心を揺さぶられるドラマである。

73日前に一度巻き戻り、また冒頭の現在らしき瞬間に戻った第1話は、その冒頭シーンの謎を残したまま、第2話へと続く。

P.S.
けして笑えるシーンではないが、「あ、霜降り明星!」と思ってしまう、粗品が捜査一課の刑事・門田駿として登場。相方のせいやもTBS日曜劇場「テセウスの船」に出るらしい。来年の今頃は、ミルクボーイか。

今から観るには:「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」

基本情報:フジテレビ「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」2020年冬 #01

  • チャンネル: フジテレビ系
  • 番組公式サイト: トップイントロダクションストーリー相関図キャスト&スタッフ
  • 番組公式ツイート: Twitter@zettai_0_mihan
  • 放送日時(#01): 2020年1月6日(月)21:00〜22:24
  • 出演:
    • 井沢 範人:沢村 一樹
    • 山内 徹:横山 裕
    • 小田切 唯:本田 翼
    • 吉岡 拓海:森永 悠希
    • 篠田 浩輝:高杉 真宙
    • 北見 俊哉:上杉 柊平
    • 早川 誠二:マギー
    • 門田 駿:粗品(霜降り明星)
    • 香坂 朱里:水野 美紀
    • 加賀美聡介:柄本 明
    • 町田博隆:中村育二