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同期のサクラ #10・最終回【サクラ、あんた変わったね】

第9話のあまりに意外な幕切れで、このドラマがどういう風な終わり方をするのか、まったく予想がつかなくなった。
それを受けての最終回は、終わるというより、むしろ全く新しい展開を見せ始める。

その導き手となったのは、サクラ(北野桜、=高畑充希)が入社したときの人事部長で、今や副社長にまで上り詰めた、黒川(椎名桔平)。
これまで幾度となく、サクラを奈落の底に突き落としてきた張本人が、ここに来て全く違う役割を演じている。
最終回まで、椎名桔平の本当の役目を封印していた構成には、さすが遊川和彦作品と言う他ない。

役員エレベーターに一緒に乗ったサクラに、黒川が延々語り続ける一言一言は、実に鋭く、今の日本企業にありがちな問題点を言い当てていた。

そして前回流れた予告編でちらっと流れた、北野桜(=サクラ、高畑充希)の同期のひとり、百合(橋本愛)のセリフが、この最終話がどんなものかを示していた。

ー サクラ、あんた変わったね。
ー もしかしたら、あんたが一番、権力を持っちゃいけないタイプだったりして。

そう、最終回でサクラは変わってしまった。
権力を持ってしまったのだ。

人に忖度せず、ズバリと物を言う。
めでたく終了となりそうな仕事に、遠慮なくダメ出しをして、やり直させる。

そんなサクラが今まで打ちのめされてきたのは、権力がなかったからだ。
そんなサクラが社員が逆らえないほどの権力を持ったなら、そこそこのクオリティで終わっていたはずの会社の仕事が、数段レベルアップするだろう。

そして、この最終回で浮き彫りになるのは、これまでの9話で描かれてきたジレンマとは違う、もうひとつのジレンマだった。

サクラが自分を曲げなかったことで、周囲のみんなが勇気づけられ、絆も深まった。しかし、サクラは何度も打ちのめされてきた。
今回、自分を曲げなくてもいい環境に置かれたサクラは、これまでにない高揚感を覚える。しかし、周囲のみんなは応援してくれない。

ビジネスなのだから、嫌われることを厭わずにドライに結果を求めて邁進し、さらに大きな力を身に着けるのか。
それとも、やっぱり元の同期のサクラに戻るのか。
そこが見どころでもある。

きれいな終わり方だったが、最終回で急展開を見せたことで、話の運びは少し性急だったようにも感じる。
問題提起はすばらしく鋭いが、問題解決では凡庸な後味を残す。
ゴルフで言えば前半はバーディやイーグルを連発しながらも、後半からボギーが多かったような印象。

しかし、他では体験できないタイプの感動を与えてくれたこのドラマ、全体を通じて、観る者の人生に痕跡を残してくれる作品であったことは間違いない。

P.S.

まぶしいほどの桜の木が映るシーンは、春に撮ったのだろうか。

基本情報:日テレドラマ『同期のサクラ』#10