吉野彰さんにノーベル化学賞が授与されることが発表された夜に始まった、このドラマ。
古くは「女王の教室」や「家政婦のミタ」など、エキセントリックな主役を中心に据えて、人間の愚かさや人間社会の醜さをグサリと抉る、遊川和彦の独特な脚本による最新作。

最近では、テレ朝で2019年の冬ドラマ「ハケン占い師アタル」も彼によるもの。
職場の同僚のひとりひとりが抱える問題を、鋭い霊感を持つ派遣社員のアタル(杉咲花)が厳しい口調で叱りつける、重いながらも愛のある名作だったが、今回の『同期のサクラ』も舞台は企業。

2009年から現在2019年まで、1話1年で同期入社の5人組を描くドラマである。
その中心にいるのは離島出身の北野桜(高畑充希)。
この第1話は、2019年のちょっとショッキングなシーンから始まり、2009年の入社式の場面に時間が巻き戻る。

タイトルの元になったのは「同期の桜」という軍歌だろう。
太平洋戦争中に日本国民を盛り上げた歌で、お国のために散る特攻隊を桜に例えた歌詞が痛々しい。

ドラマで描かれている同期入社5人組を桜の花びらに例えることで、戦後ずいぶんと経った平和な今、会社のために命をすり減らしている企業戦士たちとイメージを重ね合わせているのかも知れない。

公式サイトを見ると、主人公のサクラのメガネが割れている。

まっすぐ歩くと、人にぶつかる。
ふつうの人は、ぶつかることを避けようとするが、サクラは、まっすぐ歩く。

この第1話で描かれているのは、空気を読まず、人に忖度せず、自分のやりたいこと、やるべきことをまっすぐ貫くサクラという新入社員。

でも、まっすぐ進むと眼鏡が割れる。

だからみんな、職場では空気を読んで、言うべきことも言わず、こだわるべきことにもこだわらず、目の前に障害があったらぶつかるのではなくて、よけて通ることを覚える。

場の雰囲気に合わせ、仕事の完成度に納得いかなくても、今日の日は終わらせる。

それをしないと、眼鏡が割れる=自分が壊れる、そして周囲との関係も壊れるからだ。

でも、サクラはそれを恐れず、新入社員の研修で課題として与えられた模型制作で、ある程度のところまで出来上がると、さらに上のクオリティを目指そうとする。

たかが研修である。

それに、もう夜だ。

帰ろうとしている仲間を付き合せたら、迷惑だ。

それでもサクラは諦めない。

そんな、今どきの職場に誰ひとりとしていなくなった、純粋でまっすぐな存在を、ドラマを観る者は応援するのか。
それとも、妥協とやっつけ仕事をこなすだけの日常を過ごしている現実の自分を反省するのか。

ノーベル賞を受賞した吉野彰さんは、インタビューを拝見すると温和な人柄だった。彼の眼鏡は割れていなかった。
ただ、仕事のこだわりということでは人一倍なんだろう。適当に妥協するような姿勢では、ワールドクラスのレベルまで上り詰めるはずもない。

ひとまず、このドラマの第1話で、サクラは一切の妥協をしない。
妥協をしたかに見えたが、していなかった。

ただ、遊川作品は、残酷だ。
平日に仕事が終わったあとに観るには、毒が強すぎるかも知れない結末。

そして、ドラマ冒頭でちらっと映った10年目のサクラの姿に謎が残る。
この謎は解かずにはいられない。

来週の第2話は、入社2年目だ。

P.S.

あんなに食べて飲んで、ひとり1000円の居酒屋を知ってるサクラはスゴイ。

今から観るには:『同期のサクラ』

  • 最新話:日テレ無料(無料、次回のオンエア時刻まで)
  • 第1話〜最新話: Hulu(フールー)(月額1,026円、無料トライアル期間、最新話見逃し無料などあり)

基本情報:日テレドラマ『同期のサクラ』#01

  • タイトル: 同期のサクラ
  • チャンネル: 日本テレビ系列
  • 番組公式サイト: トップ イントロ ストーリー 相関図 キャスト・スタッフ
  • 番組公式ツイート: Twitter@douki_sakura
  • 放送日時(#01): 2019年10月9日(水)22:00〜23:00
  • 出演:
    • 北野桜(花村建設社員):高畑充希
    • 月村百合(花村建設社員):橋本愛
    • 木島葵(花村建設社員):新田真剣佑
    • 清水菊夫(花村建設社員):竜星涼
    • 土井蓮太郎(花村建設社員):岡山天音
    • 北野柊作(サクラの祖父):津嘉山正種
    • 脇田草真(サクラの隣人):草川拓弥
    • 中村小梅(サクラの隣人):大野いと
    • 火野すみれ(花村建設人事部):相武紗季
    • 黒川森雄(花村建設人事部・部⻑):椎名桔平
    • 老女(飲食店のおばさん):柳谷ユカ
  • 脚本: 遊川和彦