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テレ朝ドラマ「サイン―法医学者 柚木貴志の事件―」第4話

主人公の法医学者・柚木貴志(大森南朋)と、敵役ポジションの日本法医学研究院院長・伊達明義(仲村トオル)。
第4話は、物語の軸となる彼らの苦悩と悲しみが印象的な回だった。

慶徳小笠原病院の医師ふたりが、同じ時刻に、それぞれ別の場所で突然死し、柚木と中園景(飯豊まりえ)が、その解剖にあたることになる。遺体に異常はなかったものの、同じ職場の人間ふたりが、同じ時刻に死亡するという事態だけに、警視庁捜査一課の和泉千聖(松雪泰子)は事件性を疑い、柚木もこの一件に強い関心を覚える。慶徳小笠原病院は、かつて転落死した柚木の父が勤めていた病院だったからだ。

一方、伊達も慶徳小笠原病院について苦慮している案件があった。
法医学研究院には、解剖結果をねつ造することで、慶徳小笠原病院で発生した医療ミスを隠ぺいした過去がある。極秘であったはずの、その情報がどこからか漏洩、このところネット上に書き込まれるようになっていたのだ。

伊達は、恩師であり、解剖結果ねつ造に関わった法医学研究院の前院長・兵藤邦昭(西田敏行)に、研究院を守るため、あることを頼みこむ。

その兵藤は柚木にとっても恩師であり、また父親がわりのような存在でもあった。だが、柚木が兵藤を自宅に訪ねていくと、彼は首を吊って自害、帰らぬ人となっていた。柚木は兵藤が自殺などするはずがないと、解剖を担当するが、自殺と判断せざるをえない結果に終わり――

というのが、今回のあらすじだが、話の随所に、若かりし頃の柚木や伊達が、それぞれ兵藤と何を語り、何を志してきたかというエピソードが挟まれていた。

柚木も、伊達も、才能に恵まれた、優秀で強い男たちだ。これまで、対立する彼らの人間的な弱さは描かれてこなかった。その部分が補完されたことで、ふたりのキャラクターがより魅力を増している。

柚木は、父親の死亡時に解剖を担当した兵藤によって救われて以降、彼を父のように慕い、同じ法医学者を目指したという経緯がある。一方、伊達もまた、若かりし頃は、遅れている日本法医学の状況を憂い、法医学研究院の創設を志す、熱い法医学者だった。だが兵藤のもとで研究にまい進していた彼は、同僚の死をきっかけに、法医学を守る体制維持のためなら手段を選ばない男へと変わっていく。

ふたりの歩く道は決定的に異なってしまったが、それでも共に兵藤の薫陶を受け、共に日本法医学の発展を願っていることは変わらない。

終盤、兵藤の遺体を解剖する場面は印象的だ。いつも法医学者としてプロの仕事をみせつける柚木が、父のごとく慕う恩師の身にメスをいれることを幾度もためらう。そして解剖の様子をガラスごしに見守る伊達もまた、いつもクールな彼らしくもなく、苦悩に顔をゆがめていく。同じ思いを同じ師のもとで育んだ強い男たちが、作中はじめて動揺や苦悩を表に出した様には、心を打たれずにいられなかった。

特に伊達については、これまで野心家のダークな敵役といった悪の面ばかりが強調されてきていたように思う。だが、彼はただの悪ではなかった。善悪はともかく、彼にも彼なりの信念があり、クールな外面の中に、いまだ熱い思いも秘めている。

この伊達と主人公・柚木が、今後いかに対立を深め、どう対決していくのか、期待は高まる一方だ。

また、兵藤を演じた西田敏行は流石の演技だった。柚木と伊達、強い男たちの苦悩を引き出せたのは、恩師・兵藤というフィルターがあってこそ。もちろん、大森南朋と仲村トオルもよかったのだが、大御所・西田の重みが、ふたりの演技のリアリティを増幅させていたように思う。

尚、今回起こった二件の殺人事件は未解決のままだ。
その謎がどう解明されていくのか、そこに柚木と伊達の確執がどう関わっていくのか。次回も見逃せない。

今から観るには:「サイン―法医学者 柚木貴志の事件―」

基本情報:テレ朝ドラマ「サイン―法医学者 柚木貴志の事件―」第4話