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TBSドラマ「凪のお暇(なぎのおいとま)」第1話 – 黒木華

ひと昔前「KY」という言葉が流行った。
あまりその言い回しを使わなくなった今でも、人はその場の「空気」を読んで生きている。
むしろ最近は、人と会ってない時間帯でもスマホ越しに世の中と常時接続されていて、周囲からどう思われているかを気にしながら生きている。

この面倒な、人とのしがらみをすべてリセットして、会社も辞めて、スマホも解約して、どっか遠くに行きたい。

そう思っても諸事情によって踏み出せない視聴者のみなさまが、人生をリセットする気持ちよさを疑似体験させてくれるドラマだ。

オープニングシーンからしばらく「凪のお暇(なぎのおいとま)第1話」というタイトルが画面に出てこない。
CMが何度明けても出てこない。
エンディングでやっと出てくる。

なぜか?

空気を読み過ぎていた女、大島凪(おおしま なぎ、=黒木華)が、お暇(おいとま)を貰うことができるまで、ドラマ1話分の時間がかかったからだ。

ドラマの冒頭で凪は、場の空気を壊さないために、言うべきことも言わず、自分が犠牲になっている。
イヤな仕事を頼まれてもイヤと言えず、イヤなことを言われても文句も言えず、人に合わせるだけの人生。

いっぽう、凪の勤務先のエース社員・我聞慎二(がもんしんじ、=高橋一生)の一言。

慎二「空気って自分で作るもんでしょ?読む側に回ったら負けですよ」

そのとおりだ。読む側に回ったら負け。

しかし凪は、その「負け」の側に回った女だった。
この第1話の中盤で、それでもこれまで何とか凪が耐えてくることができた「支え」が、ぶち壊しになる瞬間が実にうまく表現されている。

そして、全てを捨てて引っ越してきた家賃3万円の安アパート。

自販機の下に落ちている釣り銭を探すおばあさん、吉永緑(よしながみどり、=三田佳子)を見て、最初は「あんな風に自分もなってしまうのか」と怖くなる。

ところが、この一見かわいそうな老女が、凪がこの地に来てもまだ持ち合わせていた、空気を読む癖を捨て去るきっかけを作ってくれる。

そして、気づく。

凪「空気って、読むものじゃなくて、吸って吐くものだ」

原作の同名人気漫画に忠実に制作しているのかも知れないが、唯一気になるのが、人生リセットした凪にまだアプローチをしてくる「あちら側」の人間、我聞慎二。

人の私生活にズカズカ土足で入ってくるような、女性を蔑視する言動が目立つ彼が、なぜ凪に執着するのか。
凪を弄んでいるだけの単なるクズにしては、行き着けのスナック「バブル」でグチるシーンが、ちょっと解せない感じもする。
凪を大事に思う気持ちがあるのに言葉使いが非礼なだけなのか、そのあたりは第2話以降にわかってくるのかも知れない。

P.S.

ドラマ放映と同じ日に公開された、新海誠監督の映画「天気の子」で、まったく同じようなシーンが出てくる偶然に驚く。

今から観るには:「凪のお暇」

基本情報:TBSドラマ「凪のお暇(なぎのおいとま)」第1話