この第11週は、ナニワの営業マン、世良勝夫(桐谷健太)の類い稀なる商才がピタリと当たった、痛快な週であった。

この2018年秋に日曜日に放映しているTBSドラマ「下町ロケット」は、多くのビジネスマンに支持されているだろう。ただ、むしろビジネスには、この『まんぷく』のほうが役立つかも知れない。栄養食品「ダネイホン」を病院に売る、という販路を見出した第9週に続き、ある意味、ビジネスマン必見の週だったとも言える。

「下町ロケット」は、佃航平(阿部寛)が率いる町工場が窮地に追い込まれながらも、あくなき情熱でそれを跳ね返す感動物語である。ただあくまで「諦めなければ夢は叶う」という作品であり「なるほど、その手があったか」と言う画期的な着想があるわけでもない。

ところが、この『まんぷく』は舞台が大阪と言うこともあってか、マーケティング(商品を売れるようにするための取り組み)の基本を教えてくれる。

第9週の功労者は、大阪経済界の重鎮、三田村(橋爪功)だった。
彼の「これをほしがる客が誰なのか、どこにおるのか」というアドバイスによって、味が悪くて一般には売れなかった栄養食品「ダネイホン」を病院向けに売るという施策に辿り着く。

この第11週で世良は、それ以上の思い切った作戦を敢行する。

経緯は、前週で「たちばな塩業」が進駐軍に対する反乱を企てていた疑いをかけられ拘留されていたことが原因で、専売局から主力の商売であった塩の取引を停止されることから始まる。福子(安藤サクラ)の進言により萬平(長谷川博己)は、塩の製造をやめてダネイホン1本に専念し、全国に販路を拡大しようという決断をする。社名もすぐに「たちばな栄養食品」に変更し、新しい船出となるのだ。

そこでアドバイザーとして呼ばれたのが世良だった。

彼は、全国の病院にもダネイホンを売ろうという福子の計画を一蹴して、一般人にもダネイホンを売ろう、と提案する。
一般には受けなかったから病院に売っているんだろう、という意見に対しては「そんなもん味を改良して美味しいダネイホンにしたらええやないか」と言ってのける。

そりゃ、そうだ。確かにそのとおりだけれども、ビジネスの現場では、こういう思い切った転換がなかなかできないものだ。

そして、味の改良をしたダネイホンの社内での試食会が、興味深く映る。
味がよくなった、という意見が大多数だったが、社員の3人は前の方が好きか、違いがわからないと答えた。

ただ、全員に好かれる必要はない。
ここまでカバーできれば商売としては勝算がある、という判定は賢明だった。

萬平ひとりなら、もしかしたら全員が美味しいと言うまで改善の手を緩めなかったであろうが、このあたりも世良が参加したことによる影響が大きいだろう。

世良は、さらにその剛腕ぶりを発揮する。
まずは、東京に販売会社を設立する。
そして、福子のナレーションをレコードに録音して東京の商店街で流し、萬平にくいだおれ人形の格好をさせた看板を貼り出すプロモーション施策を推進する。

その、世良が考えたシンプルながら秀逸な宣伝コピーが、この週の副題にもなっている「まんぺい印のダネイホン」である。

ーー栄養満点、ダネイホン
ーー美味しい、美味しいダネイホン
ーーまんぺい印のダネイホン

この「刷り込み」効果は大きい。

まず「栄養満点」という言葉で、健康によい商品であることが耳に残る。
次に「美味しい」という言葉で、美味しい食品だと無意識のうちに脳に刷り込まれる。これは、リサーチの結果、美味しくないと感じる人もいることがわかっている商品の弱点を、何度も同じ言葉を聞かせることで催眠術のような手法で美味しいという印象を持たせてしまう効果がある。
最後に「まんぺい印」で、実際にその商品を目にしたときに、「あ、これか」と一瞬で認知する効果がある。

水曜日の第63話の、このナレーションのレコーディングと、萬平の撮影シーンは見ものである。

この世良のプランは的中し、ダネイホンは東京でバカ売れする。
多少の無理をしてでも、やるべきことをきちんとやっておけば商品は売れる、というお手本だ。

たしかに亡き福子の姉・咲の夫である真一(大谷亮平)は、世良に比べると紳士だ。
ただし、ズルいところもあるが、こういう世良のような馬力のある営業マンがいると、ビジネスが大きく動くのだ、ということを教えてくれた週であった。

金曜日の第65話で、ダネイホンのコピー商品が出たことを知って、その製造会社に殴り込みをかける世良と真一のコンビの対比が非常にコミカルで楽しめる。

そして、土曜日の第66話で、またしても事件が…もう三度目だ。

P.S.
この週、東京に出てきた神部茂(瀬戸康史)に叶わぬ恋心を抱く健気な女性、美代子を演じている藤本泉は、2016年に放映された「ダメな私に恋してください」では真逆のキャラを演じている。第1話で30歳の深田恭子に向かって「私、もう23ですよ」と挑戦的な態度を取る「藤本ちゃん」と言う役だ。

今から観るには:『まんぷく』

基本情報:NHK連続テレビ小説『まんぷく』第11週「まんぺい印のダネイホン!」

  • タイトル まんぷく
  • チャンネル NHK総合
  • 番組公式サイトトップあらすじ人物相関図
  • 放送日時 2018年12月10日(月)〜12月15日(土)、8:00〜8:15
  • 出演
    • 立花福子:安藤サクラ
    • 立花萬平:長谷川博己
    • 今井鈴(福子の母):松坂慶子
    • 小野塚咲(福子の長姉):内田有紀
    • 小野塚真一(咲の夫):大谷亮平
    • 香田克子(福子の姉):松下奈緒
    • 香田忠彦(克子の夫、画家):要潤
    • 香田タカ(香田家の長女)岸井ゆきの
    • 加地谷圭介(元・理創工作社の共同経営者):片岡愛之助
    • 世良勝夫(世良商事社長):桐谷健太
    • 三田村 亮蔵(大阪経済界の重鎮):橋爪功
    • 牧善之介(歯科医):浜野謙太
    • 保科恵(福子が働いていたホテルのフロント係):橋本マナミ
    • 鹿野敏子(福子の親友):松井玲奈
    • 水島ハナ(福子の親友、旧姓池上):呉城久美
    • 水島賢作(ハナの夫):松木賢三
    • 神部茂(帰還兵、たちばな栄養食品社員):瀬戸康史
    • 三原竹春(清香軒の店主):阿南健治
    • 三原まさの(竹春の妻):久保田磨希
    • 近江谷佐吉(大阪帝大・栄養学研究室):小松利昌
    • 谷村美代子(大衆食堂「やまね」店員):藤本泉
    • 語り:芦田愛菜
  • 主題歌:DREAMS COME TRUE 「あなたとトゥラッタッタ♪」