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TBS日曜劇場「下町ロケット」 第3話・阿部寛主演

このドラマは、なぜ面白いのか。

もちろん巨額な予算をかけたゴージャスな造りによる満足感もあるだろう。
俳優陣も豪華だ。主役を張れる人物が何人も出ている。今回はチョイ役で中尾彬まで。
そして、毎回ピンチになるが、それを跳ね返す不屈の精神がもたらす大逆転が待っている。

ただ、最も響くポイントは、会社勤めをしてきた人が多かれ少なかれ、このドラマのなかで描写されるような辛い思いをしてきたからではないだろうか。業績優先のための非情な経営判断の犠牲になったり、やる気や能力を正当に評価されてもらえなかった人たちを、ドラマの中だけではあるが、佃航平(阿部寛)が救ってくれるからではないだろうか。

リーマンショック後の企業経営は極めて合理的でドライになってきた。そんななかで夢を追いかけ、優秀な技術者を鼓舞してくれる佃の姿は、サラリーマンにとっての理想の社長として映るのだ。

さて、今回の第3話では、これまでの登場人物を超越した、前代未聞のイヤな奴が現れる。
佃製作所がロケット用のバルブを納品している大手企業、帝国重工・審査部の安本(古坂大魔王)と言う男だ。
どこかで見たことあるなぁと思いきや…まさかのPPAPを歌ったピコ太郎に扮していた人物である。

さて、経緯としては第2話で、窮地に立たされていた「ギアゴースト」という会社に対し、佃が15億の大金をかけて救済する判断をしたことに端を発する。佃は、彼らの高い技術力に未来の夢を感じたことと、共同経営者の伊丹(尾上菊之助)と島津(イモトアヤコ)の二人に惚れ込んだのだった。彼が、佃製作所の幹部社員の前でこの無謀とも言える経営判断について説得する感動のシーンが、第3話の冒頭でも再現される。

だが、それにケチをつけてきたのが取引先の帝国重工だった。
そもそも佃製作所とギアゴーストの話なので、首を突っ込んでくる筋合いもないはず。しかも、なぜ秘密裏に交渉中の本件が外部に漏れていたのか。
しかしながら、町工場である佃製作所が15億もの金を投じて「不良債権」でもあるギアゴーストを援助するなら、帝国重工の取引先としてはリスク管理上ふさわしくないのではないか、と言うのが帝国重工の立場だった。
佃製作所は、帝国重工の信用調査を受けるように命じられる。
不適切と判断されれば帝国重工との取引が打ち切られるかも知れない死活問題となってしまう。

もうひとつ、ギアゴーストの伊丹と島津は、かつて帝国重工に勤めていたのだが、その職場を追われたという経緯も不利に働いていることは間違いなかった。

この信用調査を担当するのが、先ほどの安本。

まず、帝国重工で働いている佃の娘、佃利菜(土屋太鳳)のところにわざわざ現れてこう言う。

…お父さんの会社、従業員200名って、ちっぽけな会社だねぇ。

実際、200人もの人員を食べさせているとしたら立派な会社だが、大企業の信用調査担当としては、そう見えるのだろう。
彼は、さんざん嫌味を言って利菜の前を去っていく。

よくよく考えると、帝国重工が自社開発で作れなかったものを佃製作所の技術で作れたのだから、取引停止すると困るのは帝国重工の方なのだが、それはそれとして、信用調査の日に、そのイヤなヤツが佃製作所に乗り込んでくることになる。

いっぽう、ロケット事業の次のビジネスとして佃が期待を膨らませているのが、ギアゴーストとの協業による農機具用のトランスミッションの開発だ。経理部長・殿村(立川談春)の実家が新潟の農家であることから、佃はギアゴーストの経営者二人を誘って、実際に田植え機を使う現場体験をすることを提案する。ドラマの中で田植え機が故障してしまい、泥だらけになりながら人手で田植えをする場面がある。これを見ると確かに人にはできないことを高速かつ正確にやってくれる機械のすごさを感じる。ただ、その機械の動きにも、まだまだ改善の余地があることをギアゴーストの伊丹が見抜く。これは次回以降の伏線となるのであろう。

そしてついに信用調査の当日。
そもそも最初から上から目線で、かつ否定的な調査結果を出そうと思っている人物に対応するのは相当な修羅場だ。
にもかかわらず、経理部長の殿村の父親が倒れてしまうアクシデントがあり、彼なしで始めなければならなくなる。

そこでイヤなヤツ、安本はこう言うのだ。

…部長クラスが顔を出すもんじゃないんですか?舐めてるんですか?

そして意地悪度マックスの調査が始まる。要求してもいない書類まで出せと言われる始末。
一方的に決定事項としてNG判断を告げられ、佃は追い詰められる。

ドラマの筋書きとしては、このあと最後に感動の大逆転が待っているのだった。
ただ、あまりにも安本を演じた古坂大魔王の迫力がありすぎて、大逆転への流れの切れ味が鈍くなってしまったのが副作用でもあった。安本さん、あれだけ罵倒してたのにそんな簡単に引き下がるの、と言う印象だ。

修羅場をくぐり抜けた佃製作所とギアゴーストは次のステージへ。
と思いきや、さらなる暗雲が立ち込めたところで第3話は終了する。

P.S.
いずれにしても、安本を演じた古坂大魔王、大活躍の回であった。
まるで何度もドラマに出演していた俳優のようなスキのない演技。
ピコ太郎の背広姿、お見逃しなく。

今から観るには「下町ロケット」

基本情報:TBS日曜劇場「下町ロケット」 第3話・阿部寛主演