野木亜希子とNHKによる、ネット社会に警鐘を鳴らす野心作は、青虫で始まり、青虫で終わった。もしかしたらこの青虫、フェイクニュースに踊らされているネット民を辛辣に例えているのかも知れない。それとも、ネット上にいつまでも漂って消えないニセ情報の比喩として使っているのかも知れない。

前編では、青虫が入っていたうどんを撮影した写真が発端となり、うどんに異物を故意に混入した写真が連続投稿されて大炎上を引き起こす。さらに、それに便乗してその「鶴亀うどん」を製造している企業の評判を貶める意図での嘘のニュースが拡散される。どうやら表に出てきていないプレイヤーがおり、そこに企業の利権や政治がらみの大きな力が働いているらしい。

ネットメディア「イーストポスト」の記者、東雲樹(しののめいつき、=北川景子)は、背後に潜む真実を探るために、身の危険をも顧みず突撃取材を敢行する。

樹は青虫うどんの炎上に加担していた人物を突き止める。
ひとりは、複数の人物になりすまして、うどんにわざと異物を混入した自作自演写真を投稿していた女性。
もうひとりは青虫の入っていた「鶴亀うどん」糾弾派と擁護派の両方のまとめサイトをひとりで作って、お互いを敵対させることでアクセスを稼いでいる男性。

彼らに罪の意識はなかった。
おまけに、まとめサイトを運営する男性からは、マスコミだって人のプライバシーを暴いたりしているじゃないか、と切り返されてしまう。
確かにそのとおりだ。

樹の上司であるイーストポストの編集長、宇佐美(新井浩文)も冷ややかだ。
ネットのニュースはページビュー(何回見られたか)が、広告による収益に連動する。
このため、新聞社から出向してきた樹の主張が正論であっても、数字に繋がらない記事のための取材はさせたくない、というスタンスだ。

落としどころとして編集長は、樹の取材を許す代わりに「何でもいいから」毎日ページビュー(PV)稼ぎのために記事を書くように指示する。
記事タイトルは「東雲樹が見た!」で始まる。過去に暴力事件を起こした記者、という誹謗中傷がネット上に蔓延しているため、ある意味で「名前が売れている」樹の記事は、PVを稼ぐ。正義感に燃えて真面目に書いた記事よりも「何でもいいから」と言われて書いた記事のほうが結果を出す、という現実に直面する。

ネットユーザーは、真実を知りたいわけじゃない。
自分にとって都合のよい情報は信じる。都合が悪い情報は信じない。
まるで、どこかの国の大統領のようでもある。

さて、前編でちらっと出てきた県知事候補、最上圭一(もがみけいいち、=杉本哲太)は、どうやら悪事を働いているようだ。実は樹が新聞記者として彼の不正を暴こうとしたが、記事にできなかった過去がある。

どうやら彼が、青虫うどん投稿を餌にして成長していったフェイクニュースの出所に関与しているようで、後編では、樹によってついにそれが暴かれるのだ。

と思いきや、このドラマの視聴者もまんまと騙されていたことがわかる。

最上の部屋に乗り込んだ樹は、驚愕の事実を知り、予想に反して事態は別の方向に流れ始める。

そして最終局面に向かってさらにエスカレートし、ちょっとやりすぎでは、と思えるほどの地獄絵図のような光景を見せつけられる。
ただ、これは笑いごとではなく、将来日本でネットの投稿が発端になって街頭で人々が殴り合うような事件が発生するかも知れない。

非協力的だった編集長が最後は危険を冒して協力してくれたり、樹と猿滑さんが妙に仲良くなったりするが、それに至る心理の動きの描写が足りない感じもあったものの、青虫の映像で始まったこのドラマに、最後に青虫がもう1回出てきたことですんなりとまとまった。

P.S.
鶴亀風うどん830円は、ちょっと高い。

基本情報:NHK土曜ドラマ『フェイクニュース』後編

  • タイトル フェイクニュース
  • チャンネル NHK総合
  • 番組公式サイトトップあらすじキャスト
  • 放送日時 2018年10月27日(土)21:00〜21:50
  • 出演
    • 東雲樹・しののめいつき(ネットメディアの記者):北川景子
    • 猿滑昇太・さるすべりしょうた:(青虫混入うどん写真の投稿者):光石研
    • 網島史人・あみしまふみと(樹の同僚):矢本悠馬
    • 宇佐美寛治・うさみかんじ:(樹の上司):新井浩文
    • 西剛・にしつよし(新聞記者、樹の元同僚):永山絢斗
    • 最上圭一・もがみけいいち(県知事選候補者):杉本哲太
  • 脚本 野木亜紀子