凶悪犯罪を伝えるテレビのニュースは、警察はどうしてこの犯罪を未然に防げなかったのか、と言う論調で報じられることがある。
その報道を見ている視聴者としても「そうだよ、警察は何やってんだ」と感じることがある。

では、AIを使って、これから起こりそうな犯罪を予測して、未然に防ぐことができたら、どんなにいいだろう。
このドラマ、そういう近い将来に実際にできてしまいそうな、コンピュータシステムを扱ったものだ。

王道の刑事ドラマは、まず遺体が見つかるところから始まり、犯人が捕まることで解決する。
このドラマは、これから起こりそうな犯罪を予測して、それをやめさせる。

キーワードは「止めにいくよ、これから起こる犯罪を」だ。

沢村一樹の刑事役と言うと、ついこないだテレ朝の「未解決の女」で観たばかりでもある。
そちらは、遠い過去、10年前にお蔵入りになった犯罪の謎を浮かび上がらせるものだが、今度は「未然犯罪」という全く逆の切り口のもの。

「未解決の女」でも、沢村一樹らしい、ひょうひょうとしたキャラクターだったが、今回も犯罪モノのドラマながら、彼のおかげで独特のほのぼのとした空気感を醸し出している。
ただし、単なるお気楽キャラではなく、実は洞察力も指導力もあり、なおかつディープな邪悪さを兼ね備えている役柄だ。
彼はこのような、いろいろな風味がブレンドされたキャラクターを実にうまく演じきっている。

「絶対零度」は、過去に上戸彩の主演で2シーズン放送されたドラマであるが、この第1話を見る限りは、もうちょっと「温度」が高い。

設定としては「ミハン」と呼ばれる、個人のプライバシーを含む日本中のデータベースにアクセスして、重大犯罪を起こしそうな人物を割り出すロジックを有する、巨大なシステムが警視庁に存在する。
ただ、これは勝手に個人情報にアクセスするなど、正式には認められていない違法捜査でもあり、なおかつ未完成の実験段階でもある。
このため、世間には極秘のプロジェクトだ。

まず、ドラマの冒頭で、井沢範人(沢村一樹)が何やら訳ありの警察官であることがわかる。
この「ミハン」システムは、井沢をこのプロジェクトに導き入れた、東堂定春(伊藤淳史)によって推進されている。

これに、かかわっているチームメンバーのキャラクターが、ハチャメチャで面白い。

まず、山内徹(横山裕)。
東堂(伊藤淳史)や井沢(沢村一樹)は、今は将来の理想形である、本当に犯罪を未然に防ぐことができるシステム完成に向けてのトライアル段階であることを理解している。しかし山内は、わざわざコンピュータに犯罪を予測させることに価値を感じていない。ただ、彼には正義感の塊のような側面もあり、文句を言いながらも協力的な役割も果たす。

小田切唯(本田翼)は、サバサバした姉御的な存在で、喧嘩がめっぽう強く、いいアクセントになっている。

田村薫(平田満)は、静かで腰がやけに低いが、鑑識ができたり、鍵をこじ開ける技も持っていたりと、いろいろな分野の経験値が高い、役立つおじさん。

そして、南彦太郎(柄本時生)のマイペースキャラが、沢村一樹、平田満と混じり合って、全体のほのぼの感をいい味でまとめている。

さて、この第1話で、まず犯罪を起こしそうな人物としてシステムの大画面に映し出されたのが、富樫伸生(武井壮)。
果たして彼は、AIの予想どおり、悪いことをするのか。
写真で彼と一緒に写ってる強面の人物のほうが、よっぽど悪そうだ。
ただ、たいていの刑事ドラマは、いかにも悪人の顔をしている人物は犯人ではないだろう。
そして、まだ事件は起きていない。
これから起きるのだ。

それがこのドラマの面白いところだ。

本シーズンは、沢村一樹主演なので、上戸彩は「友情出演」とクレジットされている。
中盤の、非常に絶妙なタイミングで上戸彩が意外な形で登場。
なぜ「友情出演」なのかは、この第1話の結末でショッキングな形でわかる。
そして、次回、この伏線を元に、どういう展開になるのか楽しみだ。

P.S.
南彦太郎(柄本時生)の「僕のラーメンを勝手に食べないでください」という貼り紙が笑えた。

基本情報:フジテレビ月9「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」第1話 – 沢村一樹 主演

  • 脚本: 浜田秀哉 小山正太 井上聖司
  • 音楽: 横山克
  • 主題歌: 家入 レオ『もし君を許せたら』(JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)
  • 企画: 稲葉 直人
  • プロデュース: 永井 麗子
  • 演出: 佐藤 祐市 城宝 秀則 光野 道夫

今から観るには:フジテレビ月9「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」沢村一樹 主演

今から観るには:「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」