まだまだ続く感を匂わせていたこのドラマが、来週で最終回だということがわかった第11話。久々に「ジルベール節」を堪能できる楽しい回だった。

4月に始まったころは、料理を扱っているドラマなのにずいぶんと季節感がないな、と思う。ただ、周囲が暑いか寒いかに関係なく、原作の漫画の時の流れにしたがって物語は進んでいく。シロさん=筧史朗(西島秀俊)が母・筧久栄(梶芽衣子)と一緒にとんかつを作るシーンから始まるこの第11話は、すでに秋を終えて二度目のクリスマスを迎えるタイミングに差し掛かっている。

そして満を持して、野球のピッチャーで言えばフォークボールのような「決め球」である、ジルベールこと井上航(磯村勇斗)が久々に登場する。結局、これまでの11話の中で彼がフィーチャーされたのは2回で、友情出演の田中美佐子より出番が少ないくらい。ただ、たまにしか出てこないことで、その登場感をさらに増大させている効果がある。

さて、パートナーと人生を共にすることは面倒の連続だ。離婚率が上昇しているのも、うまくやっていけないからだろう。

第1話で、シロさんが結構めんどくさい人物であることがわかる。
実際こんな細かい人と一緒に暮らしたら、たいそう窮屈だろう。

反面、おおらかで気持ちの優しい矢吹賢二=ケンジ(内野聖陽)も、第10話の嫉妬心爆発シーンを見ると、これもまた結構扱いが面倒な人物でもあることがわかる。

ただ、この二人をはるかに超えた「めんどくさい大王」が、ジルベールである。
ドラマで眺めているぶんにはよいけれど、とてもこんなヤツと、ひとつ屋根の下で暮らす自信はないだろう。

そんな彼と一緒にいる小日向さん(山本耕史)は、たいした人だ。さすが芸能プロダクション勤務。

今回もジルベールは、シロさんとケンジのマンションにクリスマスディナーにお呼ばれしているにもかからわず、部屋に入るなり開口一番「インテリアにこだわってないね」だの、食卓につくなり「表参道のレストランのほうがよかった」だの、言いたい放題。

さらに、ケンジがこしらえた豪華な料理にまで平気で文句を言う。

一般的には、サイアクな人物だ。

ところが、ふと考えてみると、人はふだん、心にそういうことを思っていても口に出してないだけじゃないか、と気づく。

世間とうまくやっていくために、人は言葉を選ぶ。
思っていることも口に出さない。

そうやって社会は円満に動いているのだ。とくに日本は。

ただ、ジルベールを見ていると、みんなで一斉にそれをやめたら、社会は反って平和になるんじゃないか、と思ったりもする。

食事のシーンをよく見ると、シロさんもケンジも、ズバズバ言ってくるジルベールに、いちいちカチンときていない。それを受け止める心の用意ができているのがわかる。

そして、今回のヤマ場が、年明けにケンジを実家に連れて行き両親に紹介する、と言うシロさんの決心に対して、ジルベールが放った一言から始まるシーンだ。

彼らしいひどい言い方だが、的を得ている。

そして、それに対するシロさんの一言が、その球を鮮やかに打ち返す。

気を使って言いたいことを言わない世の中より、お互いに言いたいことを言うことで開ける世界もあるんだ、ということに気づかされる回であった。

そして、そんなジルベールでも、気づいていたのに、気づかないフリをしていたことが一つあったことを知る。

そこが、また面白い。

P.S.

途中で挿入される、キリン一番搾りのCM、せっかくなら毎回、シロさんの作る料理を変えればいいのに。毎週ナスとパプリカのいため煮じゃ、シロさんらしくない。

今から観るには:「きのう何食べた?」

  • 全話:Paravi(月額1,017円、無料体験あり)

基本情報:ドラマ24「きのう何食べた?」第11話