平成31年の春にオンエアされた第3話。これから暑くなっていくのに、ドラマのなかでは夏が終わって秋になっていく。
原作の漫画に忠実に話を運んでいるのだろう。いつかネット配信で観るようになれば、季節感はあまり重要ではなくなるが、リアルタイムで観ていると、食材を買って調理するシーンが多いドラマだからこそ、ホントは季節にシンクロしていたほうがよかった気もする。

ただ、同じテレ東の「孤独のグルメ」のような、料理そのものがメインディッシュのドラマではない。

血の繋がりのある家族、パートナー、ご近所さん、仕事で対峙する人物などとの間にある、すれ違い、諍い、共鳴、絆など、さまざまな「味」が混じり合った人間関係を、他に類を見ないほど繊細に描写している。

そして、手作りの美味しい料理が、その人たちを結びつけ、誤解を解き、愛情を深めるための役割を果たしている。

コールスロー

この第3話では、料理好きの弁護士・筧史朗(=シロさん、西島秀俊)がゲイであることについて、悪気はないがデリカシーのない周囲の言動が彼を傷つける。

まずは、史朗の母親。
息子のことを受け入れているようで、やはりゲイを特殊な存在と捉えてしまっている不用意な発言が飛び出す。

そしてスーパーの食材を分け合うことがきっかけで仲良くなった近所の主婦、富永佳代子(田中美佐子)。
田中美佐子は、第2話だけのゲストかと思いきや、今回も登場。
前回のツナマヨそうめんに続き、今回は彼女流のコールスローの味つけを史朗に伝授する。
一緒にキャベツを切りながら、史朗が心を開いて相談したつもりの発言に対して、悪気はないが、彼女はちょっとあり得ない音葉を返す。

さらにダメ押しは、佳代子の夫(矢柴俊博)だった。
ゲイ同士だったら気が合うだろうと、小日向さん(山本耕史)というゲイの知り合いを家まで連れてくるのだ。
よかれと思ってそうしたのだろうが、必ずしもそれをやられてうれしいとは限らない。

三人それぞれの言動は、誰もがつい気づかずにやってしまいそうなものだった。

そして、それに反応する西島秀俊の、怒りを嚙み殺しながらも不機嫌さが顔に出てしまう、微妙な風味のスパイスが混じった演技は、天下一品だ。

その人がセクシャル・マイノリティであることを「知っている」ことと、「理解している」のでは大きな差があることを、じんわりと訴えかけてくれる回だった。

チキントマト煮込み

西島秀俊が、その穏やかな声で解説しながら、うれしそうに調理をする「ドラマ内・料理番組」は、やはり楽しい。
「今日は時間ないからテキトー」と言いながら作った「チキントマト煮込み」だが、最後の味つけに到るまでの過程や冷蔵庫に眠っている食材の活用法は、なかなか凝ったものだった。

出来上がったチキンに、佳代子からおすそ分けしてもらったコールスローをサイドディッシュにして、史朗と賢二(=ケンジ、内野聖陽)が、いつものように食卓を挟んで食事を始める。

しかし、この晩は、あまり平和な夕食ではなかった。

弁当

人は時に、悩みや怒りを吐露せず、呑み込んでしまう。

相手に無用な心配や迷惑をかけたくない場合。
言いづらくて正直に言えない場合。
相手に言ってもわかってくれない場合。

史朗は、この第3話のなかで、いろいろな形で呑み込み続ける。
そんな心を開いて相談してくれない史朗に、賢二が寂しい思いをしていることを史朗は知らない。

このようなデリケートなスレ違いが、とても丁寧に描かれているのが、このドラマの独特なところだ。

さて、史朗は弁護士なので、人の悩みを聞くのが仕事だったりする。
土曜日だというのに、弁当を作って依頼人と一緒に遊園地に出かける「仕事」があった。

依頼人の今田聖子(佐藤仁美)は、史朗とは真逆の「呑み込めない女」だ。
思いを抑えられない彼女のアブナイ言動に、史朗は手を焼くが、そこは職業。冷静に、真摯に対処する。

そんななか最後に、その迷惑な女が「何でも呑み込む男」だった史朗の背中を押してくれるのだ。

全部自分で呑み込まずに、誰かを頼ってもいいんだ。
なかなかステキな結末だった。

P.S.

ホールトマトの缶をゆすぐついでに、フライパンに入れる水を汲むのがグッド。

今から観るには:「きのう何食べた?」

基本情報:ドラマ24「きのう何食べた?」第3話