このドラマの最終話を振り返る前に、潜入捜査チームの「田村薫」役で第6話まで味のある演技を見せてくれた平田満について少し触れておきたい。彼の若い頃の出世作は間違いなく「蒲田行進曲」という映画作品。この映画の舞台は時代劇の撮影所なのだが、チャンバラで浪人が斬りつけられて高い階段から転落するシーンをあえて撮影して、見せ場にすることになる。その危険なシーンを撮ることが決まると、監督がウキウキして残酷な言葉を吐く。

よーし、人ひとり殺すぞ。

その命がけの階段落ち役を引き受けるのが、平田満が演じた「ヤス」だった。
そればかりではなく彼は、自分の子でもないのに、男に捨てられた女性のお腹の子の父親も引き受けようという、なんとも言えない自己犠牲の塊のような人物だった。

その昭和後期から数十年たった今、平成最後の年に放送されたこのドラマ「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」で平田満が演じる田村薫も、いい人なのに気の毒な形で「犠牲」になってしまう役であった。

何か大きなことを達成するには多少の犠牲はしかたないだろう。
また、その大きなことを達成する過程でミスや不祥事が発生し、それが原因で事が進まなくなるようだったら、ミスは闇に葬り、なかったことにされる。

昨今、多くの組織で実際に行われていそうなことである。

3シーズン目となった、この「絶対零度」シリーズの最終話は、第1話から第9話までに仕込まれたさまざまな伏線を回収する「タネ明かし」だけでは終わらなかった。警視庁と言う組織のなかで、正義を推し進めるための「やむをえない犠牲」が、本当にやむをえないのかについて深く考えさせられるメッセージを持った回であった。
米国のヒットドラマ「24」の捜査官ジャック・バウアーは、大きな犯罪を食い止めるためには、クルマを盗んだり人を殺したり何でもアリだが、このドラマは違った視点で、そういう正義のために払われた犠牲にスポットを当てている。

この最終話までに解決していなかった謎は、以下のとおり。

・ベトナムで失踪した桜木泉(上戸彩、前2シーズンの主人公)が何を追っていたのか。
・桜木と行動を供にし、ベトナムで転落死した赤川武司(須田邦裕)が井沢範人(沢村一樹)の妻に電話をかけていた。
・その直後に、井沢の妻は娘と一緒に殺された。しかし、容疑者の宇佐美洋介(奥野瑛太)の罪は立証できなかった。

これらの謎が、徐々に解明されていく。実は犠牲は、田村薫だけではなかった。
観ていて「なるほどそうだったのね」だけでは済まない、絶対にあってはならない驚くべき事実が判明していく。
この「あってはならない」の度合いが、あまりにショッキングすぎて、このドラマの大団円を見応えのあるものにしている。
すべてがわかってしまった井沢(沢村一樹)が、鬼の形相で「犯人」のいる場所に向かっていく姿は見ものだ。

そして「犯人」は、井沢にどう罰せられるのか?
息を飲む緊迫の密室シーン。

事が終わったあとで、山内徹(横山裕)と小田切唯(本田翼)に向けて吐く井沢の一言に、あまりにも意外な台詞を当てた脚本は秀逸。
ずしりと重いものを心に投げかけたドラマだった。

P.S.
途中で出てくる「青いバラ」は、なかなか花屋さんでは売っていないけれど「夢がかなう」花だそうです。

基本情報:フジテレビ月9「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」最終話(第10話) – 沢村一樹 主演

今から観るには:「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」